改正相続法のポイント 第2回 自筆証書遺言の保管制度(弁護士 二宮淳次)

自筆で作成した遺言の保管場所の現実

 自筆の遺言は他人が関与することなく作成できることから、せっかく、遺言書を作成しても、敢えて人の目に触れないところに保管しておくと誰も遺言書の存在に気付かないまま、家財に紛れて処分されてしまう可能性があります。

 私も遺言書に関するご相談においてご遺族から遺言書が保管してあった場所をお伺いすることがありますが、お仏壇や金庫・貸金庫のなかという比較的想像しやすい場所のほかに、動かすことのない大きな置き物の下というなかなか辿り着くことが難しそうな場所もありました。また、ご遺族のうちのお一人に預けていたという保管方法もよく聞きます。

 

自筆で作成した遺言は法務局で保管する

 遺言を作成する以上、遺言者の最後のメッセージを確実にご遺族の皆さんへ届けなければなりません。そうすると、ご遺族の皆さんの捜索能力に頼るのではなく、遺言の有無の問い合わせが可能な公的機関に保管しておくに越したことはありません。

 相続法の改正に伴い、自筆で作成した遺言を法務局において保管する「自筆証書遺言書保管制度」が創設され、2020年7月10日から運用が始まっています。遺言書1通につき手数料3900円で利用できる制度ですので、遺言書を自筆で作成された方は、この制度を利用することをご検討下さい。以下、この制度の概要についてご説明いたします。

 

遺言書データは遺言者死亡の日から150年間保管される

 自筆証書遺言書保管制度においては、遺言書の原本と遺言書のデータの2種類のものが保管されます。遺言書のデータに含まれるものは、①遺言書の画像データ、②作成年月日、③遺言者の氏名・出生年月日・住所・本籍、④保管開始年月日、⑤遺言書保管所の名称・保管番号、⑥受遺者・遺言執行者となります。

 そして、紙である遺言書の原本は、遺言者死亡の日から50年間、遺言書のデータは遺言者死亡の日から150年間保管されることになります。

 

保管の申請は遺言者本人にしかできない

 自筆証書遺言書保管を希望する場合、本人確認のため、遺言者自らが法務局に出向き申請手続きを行わなければならず、郵送や代理で行うことはできません。弁護士であっても代理で申請手続をすることはできません。なお、本人確認は顔写真付きの官公庁から発行された身分証明書が必要となります。

 また、保管の申請場所は、遺言者の住所地、本籍地、または所有不動産の所在地を管轄する法務局となります。職場の近くに法務局があったとしても、住所地等と異なる場合には保管の申請ができませんので注意する必要があります。

 

保管制度を利用する場合には民法以外の保管ルールにも従う

 民法により自筆の遺言書については財産目録を除き最初から最後まで全てを自筆で作成した上で、作成した日付を記載し、署名・押印するとの様式が規定されています。保管制度を利用する場合には、データ化を前提としていることや添付書類との照合との関係で、民法上の様式に加えて、①A4用紙を用いる、②上部5mm、下部10mm、左20mm、右5mm以上の余白を設ける、③片面のみに記載する、④各ページに通し番号を余白内に記載する、⑤綴らない、⑥戸籍どおりの氏名を記載するとのルールがあります。

 このルールが守られていないものを法務局に持参した場合には、そのままでは申請が受け付けられず、その場で修正できなければ改めて申請に出向くことにもなりかねませんので注意が必要です。

 

遺言者が希望した場合には、遺言者の死亡後に通知がなされる

 遺言者が申請時に、遺言者の死亡後に推定相続人、受遺者または遺言執行者のうちのいずれか1名に対して法務局に自筆の遺言書が保管されていることを通知することを希望した場合には、遺言者の死亡後、この希望に従い通知がなされます。この通知は、法務局から戸籍担当部署に対して定期的に遺言者の死亡情報を照会することによって行われますので、遺言者の死亡日に直ちに通知の発送手続が行われるというわけではないようです。

 

相続人は遺言者が死亡した後に法務局(遺言書保管所)で検索可能

 相続人、遺言執行者及び受遺者等は、遺言者が作成した自筆の遺言書が保管されているか否かを法務局で検索し、その結果が記載された書面(「遺言書保管事実証明書」)の交付を申請することができます。また、これらの方々は、遺言者の自筆の遺言書が保管されていた場合には、遺言書の情報が記載された書面(「遺言書情報証明書」)の交付を申請することができます。なお、検索した方が自筆の遺言書の存在を知りながらこれを隠匿することを防ぐために、「遺言書情報証明書」が交付された場合には、相続人等全員に対して遺言者による自筆の遺言書が法務局に保管されているという旨の通知がなされることになっています。

 

保管された遺言書に検認は不要

 自筆証書遺言書は、原則として家庭裁判所において遺言書の状態を確認する手続である「検認」手続をとらなければなりません。この手続のもとで、封緘された遺言書を裁判官が開封することによって遺言書の偽造・改ざんを防止することができ、また、検認手続の通知が少なくとも相続人になされることにより一部の者しか遺言書の存在を知らないという状況を防ぐことが可能になります。

 自筆証書遺言書保管制度においては、作成された遺言書は法務局に保管されていることから偽造・改ざんの可能性は低く、また、「遺言書情報証明書」交付後の通知制度により検認手続の通知よりも多くの方に遺言書の存在を知らせることが可能となります。このため、保管された遺言書については、家庭裁判所における検認手続が不要とされています。

 

無効な遺言書も保管される可能性がある

 自筆証書遺言書保管制度においては、「遺言書が有効か無効か」、「遺言書の内容が特定されているか」との審査は行われません。このため、遺言者の自筆の遺言書が法務局で保管されていたものの、内容を確認してみると無効であったということが起こりかねません。

 このような事態を防ぐための有効な方法として、専門家が関与して遺言書を作成することが挙げられます。次回は、専門家である公証人が関与して作成する公正証書遺言についてご説明いたします。

 

【条文】

法務局における遺言書の保管等に関する法律

(遺言書の検認の適用除外)

第11条 民法第1004条第1項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。

 

(弁護士 二宮淳次 記)

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