ニュースレターVol.9 住宅宿泊事業法施行の効果(二宮淳次)

住宅宿泊事業法施行の効果

1 観光庁の資料によれば、訪日外国人観光客の数は、2013年に1000万人を突破して以降、順調に増え続け、2017年には、2869万人にまで至っています。しかし、日本国内の宿泊施設が、訪日外国人の増加に比例して増加しているわけではなく、大阪市内などの都市部においては、慢性的な宿泊施設不足及び宿泊料金の高騰が顕著となっています。

2 2016年より、大阪市内や羽田空港のある東京都大田区など国家戦略特区内においては、都道府県知事等から認定を受けた事業者について旅館業法を適用しないとする民泊制度が開始され、認定を受けた事業者が民泊を提供するに至っています。そして、本年6月15日、一般住宅における民泊を可能とする「住宅宿泊事業法」が施行され、同法でも民泊の新規参入ができるようになったのです。

3 しかし、これにはさまざまな制限が伴います。まず、マンションで民泊を提供するためには、管理規約や賃貸借契約において民泊提供が禁止されていないことが必要ですが、マンション管理業協会によれば、全国の分譲マンションのおよそ80%が管理規約において民泊提供を禁止しており、これを容認する分譲マンションは0.3%に過ぎません。したがって、民泊の主戦場は、おのずと一棟まるごとひとりのオーナーでルールを自ら設定できる建物や一軒家に限られてくるわけです。
 しかし、住宅宿泊事業法による民泊は、1年間に180日を超えて営業すること、さらに地方自治体による条例による上乗せ規制も存在し、やはり、稼働率が低くならざるをえません。また個人が一軒家を民泊で提供する場合においても、年間180日の制限に加え、同法による家主の同居義務、または、住宅を管理する業者の選任義務が課されていて、この負担は少なくありません。
 また住宅宿泊事業法は、エアビーアンドビーなどの民泊仲介業者に対して、同法による届出が行われている物件かどうかの確認義務を課しています。そのため、大手の民泊仲介業者は、同法の施行に合わせて、適法な民泊ではない民泊、いわゆるヤミ民泊施設をホームページから削除するとともにこれら施設の仲介を取りやめたと報道されました。

4 このように住宅宿泊事業法を用いて事業として民泊提供に適法に参入することは経済的に難しく、個人が文化交流のボランティアとして民泊をするような場合でない限り、民泊を始めるインセンティブは働かないわけです。本年6月8日までに、住宅宿泊事業法による民泊の届出が、大阪市で122件(うち受理されたもの34件)しかなされず、極めて低調なことがこれを表しています。

5 他方で国家戦略特区による民泊では、最低宿泊日数が6泊7日から2泊3日へと引き下げられました。全国で認定された民泊施設は本年4月時点で2239居室ありますが、その85%が大阪市内の施設で、ここ1年でその数が5倍となっています。
 大阪市内における国家戦略特区民泊事業者の急増は、住宅宿泊事業法の規制の厳しさと国家戦略特区による民泊の要件緩和によりもたらされたものだと考えられるのです。

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