司法試験を目指す受験生の皆様へ(2)~求められていることは自分で決めないでください~ 

1 プロの弁護士を目指しているのですよね
弁護士、裁判官、検察官、あるいはインハウスロイヤー、自治体職員、いずれにしても法律のプロとして活躍したいと思って司法試験を受験されているのだと思います。法律を知悉したひとりのプロとして、社会に生起する問題に切り込み、人を救うために、そして、基本的人権擁護と社会正義を実現するために、自分の力を尽くしてみたいと思って司法試験を受験しようと考えているのだと思います。プロの法律家を目指すなら、プロとして真の実力につながる勉強をして、司法試験に合格したほうがいいと思いませんか。弁護士業は特に厳しい時代にはいっています。しかし、どんな時代が来ようとも、本物の法律家としての弁護士に対するニーズはあり続けるはずです。世の中に必要な能力を具えているのなら、その能力はいつの時代もきっと求められるはずです。だからこそ、本当の力をつけることを目指してほしいのです。

2 司法試験が求める基礎力をつけましょう
法的思考力をもって、ひとつの問題に法的視点から切り込み、法的に推論して、証拠評価をきちんとできる。そしてリスクを想定して法的な判断ができる。また、それをきちんと伝えることもできる。そんな弁護士であるならば、生き残れるはずなのです。しかし、弁護士としてあるべき実力がないのに、いくらあるように見せかけても、それは生き残ること自体が難しいです。広告を派手に打っても、有名になっても、腕がない専門家は、いずれ馬脚を現してしまうでしょう。それより、こんな時代だからこそ、真の法律家としての実力をつけることが大事なのではないでしょうか。
司法試験は、決して法律家の実力としての「完全な素養」を身に着けてほしいとなどとは言っていません。司法試験が求める回答を、方向性を間違えないで、きちんとできる人を待って合格させたいと思っているはずなのです。司法試験委員が公表する「採点実感等に関する意見」をよく読んでみてください。司法試験委員の先生方は、繰り返し、その正しい方向性のことを言ってくれているではありませんか。実力をつけて合格することが大事なんです。司法試験が求める最低限の基礎力をつけたあとに、その延長線上で、必然として合格すればよいのです。

3 今こそ虚心坦懐に
あなたが、今から司法試験を受験する人であるなら、もしかしたら私の話は耳にはいらないかもしれません。法科大学院で勉強している同級生、先輩たちは、いろいろな合格方法を語っていますし、自分の地頭のレベルを勝手に決めて、そのレベルに応じて取るべき勉強方法を決めていることが多いからです。でも、それはあなた方が勝手に決めた司法試験の合格基準ではないですか。司法試験は、こう受験すればよい。こういう方法で答案を書けばいい。同級生や先輩はいろいろ言うと思いますが、その方法で勉強を続ければ、弁護士になってプロとしての仕事ができるのでしょうか。あなたがプロになって仕事をしたいのならば、司法試験が求める基準を、謙虚に見ていく必要があるのではないでしょうか。もしあなたが今年司法試験に不合格になった方なら、私の話を聴いてくれるかもしれません。みんなが言う通りの勉強方法を進めて、そこに人並み以上の努力をしたにもかかわらず、結果は、不合格だったからです。その理由を考えている今だからこそ、虚心坦懐に自分の実力を見つめることができるからです。
いずれにしても、せっかくこれを読んでくれたのなら、今こそ、司法試験が求めている正しい方向性を認識し、司法試験が求める基礎力というものを身に着けていきませんか。真の実力をつけるための準備としての基礎力をつけて、プロを目指しませんか。

4 地域の法律事務所にも真のプロは必要だ
世の中は大変動期にあります。人口減少に伴う人手不足と高齢化社会。そして、AIによる処理やSNS等での個人情報の流通。ブロックチェーン、仮想通貨など。混沌としてきています。そして、いったいこの問題は何なのだという法律問題があちこちで起きてまいります。これまでの判例や学説では、検討もつかないような問題が起きています。もしかしたら、プロになって取り扱う事件は、世界でたった一つの事件であり、今までに一度も起きたことがない事件かもしれません。そう考えたら、法律のプロの責任の重大さを思い知るとともに、わくわくしてきませんか。
弁護士に求められるのは、法律的な思考力と素養をもって、社会を見抜き、本質を見抜き、紛争を解決し、あるいは予防し、また人の間にたって調整できる力なのです。その力をもった法律家こそが必要なのです。また、そういう弁護士は、決して、東京の大手法律事務所だけに必要なのではないのです。地域でも、そういう真のプロフェッショナルがいないといけないのです。
地方に行けば、弁護士としての基礎力がなくてもやっていけるのではないかと考えていませんか。大手の法律事務所ならちゃんとした基礎力が必要だし、ある程度の順位で合格しておく必要があるが、地方で弁護士になるなら、別にそこまでしなくてもいいのではないかと考えていませせんか。しかし、それはあまりにユーザーを馬鹿にした話です。地方にもさまざまな法律問題を抱えて悩む人たちがいます。今、生起してくる法律問題に適切に対応し、リスクを未然に防止していきたい企業もたくさんあります。経済状況や法状況が次々と変化しているのは大都市も地方も変わりはないのです。自分たちで勝手に、都市における大手法律事務所と地域の法律事務所をランク付けしないでほしいのです。むしろ、地域にこそ、ほんとうに優秀な法律家が必要なのです。

5 勝手に決めないでください
司法試験対策の勉強方法、答案を書く方法、そして弁護士に対するニーズや社会が求めている弁護士業務や弁護士像を自分勝手に決めないでください。それはあなたが決めることではありません。あなた自身が、司法試験が問うていることがらや、社会が求めている弁護士に対するニーズを正確にくみ取って、あなた自身がそれに応えていかなければならないのです。

2018.9.17
(井口寛司)

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