オンラインセミナー「会社経営とLGBT~労務から企業戦略へ~」(上)(弁護士 村上英樹)

1 はじめに

 2021年6月23日、29日に、当事務所でオンラインセミナーを実施しました。

 国会でも法案提出の動きがあり、裁判例も出るなどホットな話題で、会社経営の上でもLGBTなど性的マイノリティの問題にどう向き合うかは色んなところで現実の問題となってきています。

 最新のトピックの紹介をするとともに、今回はより広くダイバーシティ・インクルージョン経営という視点も含めてお話しさせていただきました。

 その内容を(上)(下)、2回に分けてご紹介します。

 

2 LGBTの基礎知識

 LGBTについて考えるときに出てくる言葉(用語)の基本概念を中心にお話ししました。

 ①レインボーフラッグ

  性の在り方の多様性というのは、「男の子はブルー、女の子はピンク」といった決めつけた見方ではなく、虹の色のように多彩な色、グラデーションです。

  これは、もっと広く言えば、性の在り方だけでなく、人の様々な面における在り方に多様なグラデーションであるということです。

  「レインボーフラッグ」という虹の色を描いた旗が、1970年代からLGBTの尊厳と社会運動を象徴する旗として使用されています。ここから、「レインボー」「虹色」というのはLGBT当事者や周囲の者の連帯を象徴する言葉として使われています。

 ②性的マイノリティとは

  「LGBT」といえばアルファベットとして4個ですが、性的マイノリティはその4類型だけというわけではありません。

  その他にも多様な在り方があるという意味で「LGBT+」「LGBTs」「LGBTQ+」という言い方もされます。

  性の在り方(セクシュアリティ)を決定するのは次の3つの要素からなります。

  1 生物学的性(からだの性)

  2 性自認(こころの性)

  3 性的指向(好きになる性)

  この3要素からセクシュアリティをみたときの在り方に「LGBT」がある、ということになります。

  「L(レズビアン)」とは女性同性愛、「G(ゲイ)」とは男性同性愛、「B(バイセクシャル)」とは両性愛、「T(トランスジェンダー)」とは生物学的性(からだの性)と性自認(こころの性)が一致しない状態を指します。

  他に、「I(インターセックス。身体的性が一般的に定められた男性・女性の中間もしくはどちらとも一致しない状態)」「A(アセクシャル。他者に対して性的欲求を抱かないセクシュアリティ)」「Q(クエスチョニング。自身の性自認(自分の性を何と考えるか)や性的指向(どんな性を好きになるか)が定まっていない、もしくは意図的に定めていないセクシュアリティ)」と呼ばれるセクシュアリティがあります。

 ③「SOGI」(ソジ)

  「SOGI」とは、個人ひとりひとりのセクシュアリティの在り方のことです。

  職場でのハラスメント禁止の文脈(「SOGI(ソジ)ハラ」など)で用いられる言葉です。

  「SO」は、「Sexual Orientatin」の略で、性的指向(恋愛対象や性的欲求の対象になる性)のことをいいます。

  「GI」は、「Gender  Identity」の略で、性自認(こころの性)のことを指します。   

 ④性的マイノリティに関する調査結果

  電通「LGBT調査2018」によれば8.9%の人が、連合「LGBTに関する職場の意識調査(2016)によれば8.0%の人が、LGBT含む性的マイノリティであることを回答しています。

  8%台という割合は、人口における「左利き」「AB型」の割合に近い数字です。職場にそんなに多数の性的マイノリティの方がいるとは思えない、というのが実感でしょうが、その中でカミングアウト(周囲に自身のセクシュアリティを表明すること)をしている人はわずかですから、「8%」かどうかはともかく、私たちが認識しているよりは多くの性的マイノリティの方がいると考えるべきです。

  そうすると、普段職場で「おかまネタ」「ホモネタ」のようなネタで笑いを取っているような状態があるとすれば、果たして当事者の方はその職場に居場所を感じられるだろうか?ということを意識する必要があるはずです。

 ⑤「カミングアウト」と「アウティング」

  LGBTの文脈でいう、「カミングアウト」とは、自分のセクシュアリティを相手に伝えること、または、社会に対して公にすることをいいます。

  「カミングアウト」は、本人の意思で、本人の思うタイミングでなされることですが、当事者にとってはとても大きな自己決定です。

  私がゲイ当事者の家族に直接聞いた話でも、次のようなことがありました。

  ゲイであり男性のパートナーがいる男性が、20代前半のころから、実のお母さんにそのことをカミングアウトしようと思ったけれどもなかなかできず、30代になって発作で倒れたことをきっかけに初めてカミングアウトできた、という話でした。

  両親がどう思うだろう?と思い悩んだ年月が長かったのでしょう。

  家庭でも職場でもカミングアウトが簡単な問題ではないことを知っておく必要があります。

  また、職場においては、当事者がカミングアウトすることが必要というよりは、カミングアウトするののもしないのも本人の自由であり、どちらにしても支障なく働けるということのほうが大切です。

  これに対して、「アウティング」というのは、本人の同意なく、他人が、他人のセクシュアリティを他言することをいいます。

  2015年に国立大学の法科大学院(ロースクール)で起こった事件(一橋大学アウティング事件)では、アウティングされた男性同性愛の学生がショックを受け、体調を崩すなどし大学にも対応を相談していたものの、最終的には校舎から転落して亡くなるという痛ましい結果になっています。

  この事件は後に裁判になり、東京高裁2020年11月25日判決は、大学の対応が安全配慮義務違反とまではいえないとしたものの、「アウティングは人格権なしプライバシー権を著しく侵害する許されない行為」であるとしています。

 ⑥「アライ(ally)」

  基礎知識について、最後にセミナーで紹介した言葉は「アライ」という言葉です。

  英語で「仲間、同盟」を意味する言葉で、それが転じて、「LGBT当事者たちに共感し、寄り添いたいと思う人」のことを指すようになりました。

  誰でも、「すべての人たちの価値観と向き合う」姿勢があれば自分は「アライ」であると表明することができます。

  また、自分は「アライ」であると言わなくても、態度で示すことも可能です。

  例えば、「レズ」「ホモ」のような表現ではなく正しい用語(「レズビアン」「ゲイ」)を用いるようにするだけでも、また、「男らしい」「女らしい」という言い方ではなく「○○さんらしい」という個に光をあてる言い方をするだけでも、「アライ」の姿勢を示すことができると言われています。

 

3 経営においてLGBTに取り組む意義

 では、会社経営においてLGBTに取り組むことで何が得られるでしょうか。

 経団連は2017年に「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」という文書を出しています。

 その中では、やはり人材確保のうえでも、生産性の向上の上でも、セクシュアリティを含めた多様性を尊重することが、人の持つ能力を最大限に発揮させ有用であることが書かれています。

 「ダイバーシティ(多様性)」という言葉は、今やあちこちで聞かれるようになりましたが、2種類があるといわれています。

 一つは、「タスク型ダイバーシティ」で、会社が新しいサービスを生み出すために必要な、人の能力・知識・経験などの多様性のことをいいます。

 もう一つは、「デモクラフィー(人口学)型ダイバーシティ」です。これは、人の性別・国籍・年齢などの属性の多様性のことをいいます。

 経営において、会社を構成する人の「デモクラフィー型ダイバーシティ」を確保することは「タスク型ダイバーシティ」の実現に繋がり、新しい発想やイノベーションを産むといわれています。

 LGBTへの取り組みは、直接には「デモクラフィー型ダイバーシティ」の実現ですし、一人一人がパフォーマンスをフルに発揮できるための職場作りという意味では「タスク型ダイバーシティ」の最大化につながります。

 会社経営における発展性を広げる意味で、LGBTへの取り組みに向き合うことは大いに意義があります。

(つづく)

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