【新型コロナウイルス対策ブログ】テナントの賃料について(続)~民法改正、国・自治体の支援

1 はじめに
 テナントの賃料問題については、先日(4月21日)、テナント側から、オーナー側からそれぞれに分けて解説しました。
 その後にも動きがあり、また、ちょうど4月から施行された民法改正にも関連して、色々問い合わせを受けたり、また、ネット上でも色んな疑問が出されていますので補足して解説します。
 それとともに、地元ひょうご神戸でも、自治体がそれぞれに支援策を打ち出していますのでそれもフォローしてまとめておきたいと思います。

2 民法改正との関係
 民法611条の改正が「コロナ休業に使えるのではないか?」との意見がネット上でも見られるようになりました。
 確かに、関係のある条文の改正です。
 改正前の民法では、建物が「滅失」した場合にのみ、賃借人が賃料減額請求ができるとされていました。
 それが、今回改正された民法611条1項では、滅失の場合だけではなく、「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」にも使用収益できなくなった部分の割合に応じて賃料が減額されると定められています。
 そこで、

Q 「この条文の適用によってコロナの影響で閉店することになった場合に賃料は減額されるのではないか?」

といわれるようになったのです。
 この問いに対しては、結論、次のように回答いたします。

A 改正法の条文の適用があるのは、4月以降契約(更新含む)した賃貸借契約に限られる(現在の契約の中では少数)。
 閉店しているというだけで自動的に減額されるわけではない。
 ケースバイケースで適用される可能性はあるが、「法律論」(法律が適用されるかどうか)をテナントとオーナーで争うべきではなく、双方が互いの事情に配慮して話し合い、減額や猶予を含めて合意をしていくべきである。

 したがって、実際の場面では「法律論」にこだわらずに話うべきですが、考え方の整理のために以下で法律について解説をしておきます。
①  適用がある契約
 改正民法は4月以降に契約(更新含む)した賃貸借契約に限って適用されますから、それ以前からの契約が続いている場合には適用がありません。
 現在の大半の賃貸借契約には改正民法の適用はないことになります。
 また、この条項は「任意規定」といって賃貸借契約で違う定め方もできるので、実際の場面では契約書のルールを確認する必要があります。

②  改正611条1項「使用及び収益することができなくなった場合」
 何がこれにあたるかは非常に難しい問題です。
 現在のように、外出自粛が要請される中で店舗やオフィスを閉鎖することは社会的には求められていることに沿うのですが、法律的に強制されているわけではないため「使用及び収益することができなくなった場合」にあたるのは難しいとも考えられます。
 緊急事態宣言下で都道府県知事からの施設の使用制限、停止の要請(新型インフルエンザ等対策特別措置法45条2項)を受けた場合でも、それが即「使用及び収益することができなくなった場合」にあたると判断されるわけではありません。
 ネット上の記事をみても、弁護士が書いたものでも、この場合の同条項の適用を積極的に認めるべきという見解と、慎重な見解が分かれています。
 通常の営業はできない場合でも、多くの場合建物そのものは利用できる状態であり、コロナ下でもその建物を利用して行える業務の有無、内容、程度、そのテナントの職種、業務形態などを総合して判断することになります。

③  その他参考
 阪神淡路大震災によってマンション居室につき上下水道・ガスが使用できなかった期間について賃料減額を認めた判例(神戸地裁平成10年9月24日判決)があります。公平の原則により民法536条1項(双務規定における危険負担の規定)を類推適用したものです。
 この判例は震災でライフラインが断たれた場合の事例ですから、今回とは事案が異なります。
ただ考え方としては、賃借人が建物について本来の使用収益ができなくなってしまっている状況でのお互いの公平をどう考えるか、という点において参考になるので紹介しておきます。
  
④  実際の話し合い
 法律が適用されるかどうかが簡単には結論が出ない場合、テナントとオーナーの見解が相違したままでは解決しません。それを解決するためには裁判を行い、裁判所の判断を待たねばなりませんが、今、そんな時間的余裕はありません。
 ですから、今、「法律では減額されるはずである」「いや、法律の適用はない」という議論を続けてはいけません。
 「店舗の収益がどの程度減少しているか」「テナントの経営状態」というテナント側の事情と、「現行賃料と相場の比較」「敷金の額」「オーナー側の経費(ローン含む)」というオーナー側の事情とを、それぞれに、また互いに考慮して、共にコロナを乗り切る話し合いをすべきです。
 その際に、オーナーもテナントも、それぞれに利用できる助成や融資など(下記)をできる限り活用することを前提に話し合うことになります。

3 国・自治体の支援制度について
 前回記事を書いた4月21日にも賃料支援について動きがあり、その後も神戸市の支援策が発表されるなど、対策が急ピッチで進められています。
①  与野党の案(4月21日各社ニュース)
 与党は、テナントに対して直接賃料の支援をするという方針です。
 これに対して、野党(立憲民主党ら)は、政府系金融機関がオーナーに対して家賃を一時肩代わりして、テナントの収入回復後に「肩代わり分」の返済を開始させる、という案を提案しています。

②  自治体の支援策
⑴  神戸市(オーナーに対する補助)
 4月23日に「中小企業等への家賃負担の軽減」として、緊急事態宣言期間(4月7日~5月6日)につき、入居する店舗に対して賃料を月額2分の1以上減額するオーナーに対して減額総額の8割(1オーナーあたり最大200万円)の補助を行う支援策を発表しました。
 https://www.city.kobe.lg.jp/a31812/yachin.html
⑵  西宮市(テナントに対する補助)
 コロナの影響により売上額が20%以上減少している個人事業主に対して、一か月分の賃料(上限10万円)を補助する施策を発表しています(4月21日)。  https://www.nishi.or.jp/jigyoshajoho/sangyoshinko/shotengai/2ndkeizaishien.html
⑶  その他(融資制度など)
明石市の融資制度(賃料2か月分の緊急融資)などがあります。皆様の自治体のHPを確認願います。
http://www.city.akashi.lg.jp/sangyou/sangyou_ka/machizukuri/shokogyo/kee/taisakujigyo/hojokin/kinkyusien2002.html

4 「国や自治体の支援策ができるかもしれない」状態でどうするか?
 現場では、これも一つの悩みになっています。
 特にオーナーの立場からすれば、「いち早く減額をしたけれど、後で、テナント支援制度ができたことによって意味がなかったことにならないか?」という心配も出てきます。
 上に述べたように、テナントもオーナーも、受けられる支援、助成金などをフルに活用したうえで、それでも埋まらない部分をどう「痛み分ける」かを考えるべき状況です、その支援策がどうなるかがまだ流動的だから、という悩みです。
 解決法としては、例えば、次のようなものが考えられます。現時点では、
「賃料の一部について支払期限を猶予し、助成等がなされればその分を直ちに支払う。」
としておいたうえで、助成等がなされない場合には減額等について再協議を行うというのも方法などです。
 今後も、緊急事態宣言の期間、国や自治体の支援策について事態は色々と動いていきます。
 いったん決めたことも妥当しなくなればまた話し合う必要が出てくるかもわかりません。また、テナントとオーナーが協力し合えば、必要な支援を受けやすくなるなど互いに有利なこともあります。
 引き続き、テナントの賃料のことについては、記事でフォローしていきたいと思います。

(弁護士 村上 英樹)

お問い合わせ