ニュースレターVol.9 大川小学校判決(野村洋平)

大川小学校判決

1 東日本大震災の津波により亡くなった石巻市立大川小学校の児童74名の遺族が石巻市と宮城県に対して損害賠償請求していた件につき、本年4月27日、仙台高等裁判所は、石巻市及び宮城県の損害賠償責任を認める判決を言い渡しました。
 津波が大川小学校に襲来し、教員らが、児童らを、比較的標高の高い『裏山』などではなく、津波が遡上してきた北上川堤防の『三角地帯』に避難させる途中で津波に呑まれたという事件で、①地震発生前に、大川小学校の教員らが、地震に関する危機管理マニュアルを津波の危険に即した具体的内容に改訂しなかった不作為に、過失が認められるか、②地震発生後に、児童を津波の襲来しない安全な場所に避難させなかった行動に、過失が認められるかが争点となりました。

2 一審も控訴審も結論として石巻市及び宮城県に損害賠償責任を認めましたが、一審は、地震発生後の現場の教員らによる個別具体的な避難行動に関する注意義務に焦点を当てた判断をしました。①地震発生前において、石巻市の防災ガイド・ハザードマップ等では大川小学校が予想津波水域・避難対象地区には入らず、むしろ津波時の避難場所にすら指定されていたことなどから、教員らには、地震津波が襲来して児童が被災する危険が迫っていることを具体的に予見することができなかったとして危機管理マニュアルの改訂に関する注意義務違反を認めず、②地震発生後において、遅くとも地震発生から46分後に、大川小学校の前を通過した石巻市の広報車が津波の接近を知らせており、この時点で教員らは、津波が大川小学校に襲来し、児童の生命身体が害される具体的な危険が迫っていることを予見できたにもかかわらず、児童らを『裏山』に避難させなかったことにつき、注意義務違反を認めたのです。

3 これに対して、控訴審は、地震発生前の大川小学校としての防災対策に関する注意義務に焦点を当てました。大川小学校の立地条件や北上川の堤防による浸水防止の効果の低さ、地震発生以前の経緯より、校長らが北上川を遡上する津波の危険性を察知していたことなどから、校長らは、想定される地震により発生する津波の被害を受ける危険性があったことを予見できたとして、地震発生前に危機管理マニュアルを改訂しなかった注意義務違反(想定される地震により発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した避難場所及び避難経路、避難方法を定めなかった)を認めたのです。

4 南海トラフ地震発生の切迫性が叫ばれているこの時点で、仙台高裁が示した判断基準は、学校における子供たちの安全確保を現場の教員に依存せざるを得ない状況にあるという実情を基本にしながらも、本来の危機管理が、咄嗟の状況で現場に適切な判断をする義務を課して事後的な法的責任を問うことによってなされるものではなく、大会社に課されているBCP構築義務(会社法362条4項6号及び5項、会社法施行規則100条1項2号)のように、事前の綿密な防災対策の構築によってなされるべきであるということを示唆したものと考えます。

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