第12回 特許法が変わる〜職務発明規程の改正〜

弁護士 高 島   浩

1 職務発明を取り巻く状況

職務発明とは、使用者の業務に属する発明で、発明に至った行為がその従業者の現在または過去の職務に属する発明をいいます。

現在、我が国では、知的財産立国を実現するため、産業競争力を高めて経済成長を促進する政策を推進していますが、特許出願人の97%は、企業や大学などの使用者側が占めているといわれています。

このように、使用者側が組織的に行う研究開発活動が、我が国における知的創造活動に大きな役割を果たしており、職務発明を活性化させる重要性がますます高くなっています。

2 従来の職務発明規程の問題点

職務発明を促すためには、使用者と従業者との間の利害関係を調整することによって使用者の研究開発投資に対する意欲を高めるとともに、個々の従業者の権利をも保護して発明の意欲を喚起する必要があります。

ここで、特許法は従前より、職務発明にかかる特許を受ける権利を勤務規則等により使用者へ承継させ、または使用者のために専用実施権を設定することを認めて、使用者側の利益を保護していました(改正前特許法35条2項)。

他方で、この場合に従業者の発明意欲の低下を防ぐために、従業者は「相当の対価」を受ける権利を有するとして従業者の利益にも配慮していました(同条3項、4項)。

しかし、使用者が定める勤務規則等(職務発明規程)は、従業者との間で協議することなく一方的に定められることが多かったため、対価について不満を持つ従業者によって「相当の対価」の支払を求める訴訟が相次いで提起されるようになりました。

青色発光ダイオード訴訟で、一審判決が約604億円の発明対価を認めた事件(認容額は請求額である200億円、控訴審で和解成立)は記憶に新しいところです。

3 特許法35条の改正

このように、使用者が一方的に定めた職務発明規程では、従業者の発明意欲が減退するのみならず、使用者にとっても後日の訴訟で「相当の対価」が幾らであると認定されるのか予測できないため、研究開発投資に対する意欲を減退させるおそれがあると指摘されていました。

そこで、今回の改正では、職務発明規程を設ける場合に「対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見聴取の状況等を考慮して…不合理なものであってはならない」と定め(改正特許法35条4項)、対価の決定過程に従業者の意思を反映させることにより従業者を保護するとともに、その対価の決定・支払の全過程が不合理と評価されるものでなければ、使用者はその対価を支払うことで免責されるとして、使用者の予測可能性が高められています。

この新しい職務発明規程制度は、平成17年4月1日より施行されます。

4 職務発明規程を設けるにあたって留意すべきこと

職務発明規程に基づく対価が合理性を有するかどうかは、上記のとおり@基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、A策定された当該基準の開示の状況、B対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮するとされています。

@については、必ずしも合意に達することは要求されていませんが、両者が真摯に話し合い、協議を尽くすことが必要です。

また、Aについては、作成した職務発明規程を各部署に備え置く等、従業者が見ようと思えばいつでも見られるような状態においておくことが必要です。

さらにBについては、個々の発明に職務発明規程を適用して対価を算定するにあたって、従業者の正直な意見が表明される機会を確保し、これを真摯に検討することが求められます。