第11回 労働審判法
弁護士 井 口 寛 司
1 労働紛争の増加
大企業のリストラによる人員削減が進み、成果主義人事、契約社員、派遣社員等の活用など人事雇用環境が大きく変化するなかで、解雇、賃金不払い、退職金など使用者と労働者の個別の法律問題がじわじわと増加しているのが実態です。
平成13年10月、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」により、都道府県労働局が助言や指導、そして紛争調整委員会によるあっせんを行う制度が立ち上げられましたが、平成14年度において、相談が10万を超え、あっせん申請は3000件あったと報告されています(判例タイムズ1147号4頁)。
2 審判制度の創設
そして昨年5月12日、労働審判法が制定公布されました(施行日は未確認ですが、来年4月ころとみられます。)。この制度は、使用者と労働者の「個別の紛争」について、地方裁判所において行われる「審判」であり、前述のあっせんとは異なり、審判に対して2週間以内に当事者のいずれからも異議がでなければ裁判上の和解と同一の効力が生じ、また、どちらからか異議があれば労働審判は失効するかわりに、地方裁判所に訴えが提起されたものとみなされ、紛争は直ちに訴訟へと移行することとなっています。
3 労働審判員
審判するのは、裁判官である労働審判員1名と2名の労働関係専門の労働審判員(労働者側と使用者側からそれぞれ1名が選出される予定です)で、合議によって、当該紛争の審理を行います。労働問題は、企業の事情と労働者の事情が複雑に絡み合いながら感情論、人格論にまで発展する契機をそなえたナーバスな問題が多いため、これに労使それぞれの専門家と裁判官が向かい合い、実態に即した柔軟な解決方法を探ろうとする手続きなのです。
4 3回以内で終結
しかも、期日は、最大でも3回以内とされ、1回目から事実関係や法律論を証拠に基づいてしっかりと展開していくことが要求されています。労働者側からの申立てが多くなることが予想されますが、申立てから40日以内に第1回期日が開かれ、その10日前まで答弁書提出が要請されます。しかも、3回目は審判が言い渡されることが予定され、2回目は調停手続きなどの話し合いが予定されるため、第1回の期日で勝負が決まるといっても過言でないのです。
5 日ごろの準備が最重要
労働紛争の解決方法がこの法律の登場で大きく変化することが予想されます。就業規則、貴社の労使関係の契約を見直し、また、社内に潜む法律問題をピックアップし、問題発生と同時に十分な準備を開始できるよう、あらかじめ社内事情に精通した顧問弁護士を選任しておくことをお勧めします。