第9回 破産法が変わる(3)

弁護士 石 橋 伸 子

1 担保権消滅制度の新設

破産手続開始の時において、破産財団に属する財産につき、有する特別の先取特権、質権、又は抵当権を別除権といいます(新破産法第2条第9項)。

別除権は、破産手続によらずに行使できます(新破産法第65条第1項)。

例えば、破産者の所有にかかる不動産に抵当権を有している場合、破産手続とは別に、抵当権の実行として競売を申立て、不動産競売手続により配当を受けて債権回収をはかることができるわけです。(以下、担保権を抵当権、目的物を不動産として記述することがあります。)

しかし、破産管財人は、通常、抵当権者の同意を得て、破産財団に属する不動産を任意売却により処分することを試みます。破産管財人としては、換価代金の一部を破産財団に組み入れて配当原資を増やすことができるからです。また、抵当権者としても、不動産競売手続よりも高価で売却できることが多いこと、破産管財人の主導で売却手続きが進められますから、債権回収のための手間・費用も安くて済むため、破産管財人の任意売却に協力するのが一般的でした。

ところが、仮に不動産競売手続であれば、明らかに配当を受けられない見込みの後順位抵当権者が、破産管財人に対して、抵当権抹消の対価として不当に高額な金額を要求し、そのために先順位抵当権者の同意も得られず、任意売却が頓挫してしまうことも少なくありませんでした。

こうした実情を受けて、破産管財人の任意売却を円滑に進めるべく、新破産法において担保権消滅制度が創設されました(新破産法第186条以下)。

2 担保権消滅の許可の申立てと担保権者の保護

上記の様に、後順位抵当権者が、破産管財人に対して、抵当権抹消の対価として不当に高額な金額を要求し、そのために任意売却が頓挫する等の場合、破産管財人は、担保権を消滅させて、当該任意売却を進めるべく、破産裁判所に対して、売買契約書を添付して任意売却と担保権消滅の許可申立をすることができます。

担保権者は、この破産管財人の許可申立に異議がある場合には、すべての担保権者に対して許可申立書が送達されてから1ヶ月以内に、@担保権の実行の申 てを証する書面を提出するか(法第187条)、あるいはA破産管財人の申出金額より5%増し以上の金額で、買受希望者が不動産を買い受ける旨の申出をすること(法第188条)により、破産管財人の申出を阻止することができます。この際、買受希望者は保証金を破産管財人に提供しなければなりません。

破産裁判所は、担保権の実行の申立てを証する書面の提出がない場合は、破産管財人の担保権消滅の許可申立てに対して許可の決定をすることになります(法第189条第1項)。その際、破産裁判所は、担保権者から破産管財人の申出金額より5%増し以上の金額で、買受希望者が不動産を買い受ける旨の申し出がなされている場合は、その買受申出者を、この申し出がない場合は破産管財人が許可申立の際に予定した買受人を、破産管財人の売却の相手方として許可をなすことになります。

同許可決定が確定しますと、破産管財人と上記売却の相手方との間で、許可申立の際に添付された売買契約の内容を記載した書面と同一の内容の売買契約が締結されたことになります(法第189条第2項)。

同売却の相手方は、売買代金に相当する金額から、売得金(売買代金から売買契約締結等に要する費用を控除した金額)から、破産財団への組入金を控除した金額を破産裁判所に納付します。売却の相手方が、担保権者から申し出がなされた買受希望者である場合は、売得金から既に破産管財人に提供した保証金を控除した金額を納付することになります。破産管財人は当該保証金を裁判所に納付しなければなりません(法第190条1項ないし3項)。

当該金銭の納付がありますと、担保権はすべて消滅します(法第190条第4項)。

裁判所に納付された上記金銭は、破産裁判所により、消滅した担保権を有していた者等に対して配当表に基づいて配当されることになります(法第191条)。

なお、上記@の担保権実行の申立てを証する書面が提出された場合は、破産裁判所は、担保権消滅の許可申立てに対して、不許可の決定をなします。そして、当該担保権実行の手続きが進んでいくことになります。

担保権消滅制度は、破産管財人が任意売却を進めようとする際に、担保権者が不当・不合理な要求をして、これに協力しない場合のいわば伝家の宝刀です。新法は、担保権消滅制度が活発に利用されることを予定しているというよりも、同制度の存在により、任意売却が促進されることを意図しています。これにより、オーバーローン不動産が破産財団から放棄されることも減少すると思われます。