第8回 破産法が変わる(2)

弁護士 石 橋 伸 子

1 「破産宣告」から「破産手続開始の決定」へ

破産件数が増大の一途をたどり、複雑な大型の事件も増加している中で、破産手続きの迅速化・合理化をはかるとともに手続きの公正さ・透明性を確保し、現在の経済社会の実態に適合した権利関係の調整を規律すべく、現行の破産法が全面的に見直され、新しい破産法が制定されました。来年1月1日から施行される予定です。

新破産法では、「破産宣告」という用語は廃止され、「破産手続開始の決定」という言葉に統一されます。

新破産法の改正点は広範囲に及んでおりますが、今回は、賃貸人が破産した場合の賃料債務との相殺等について、ご紹介いたします。

2 賃料の前払いまたは賃料債権の処分

賃借人が1年分の家賃を前払いした後に、家主が破産したとします。現行破産法では、賃借人は、家主の破産管財人に対して、破産宣告時を基準として当期及び次期の家賃についてしか、既に支払ったということを対抗できません(現行破産法第63条第1項)。すなわち、次期以降の家賃については、既に家主に支払ったにもかかわらず、破産管財人へ二重払いをしなければならないわけです。

新破産法では、この規定が廃止されました。したがいまして、新法においては、賃借人は、家賃の前払額全額について、家主の破産管財人に対抗できます。 

また、家主が将来の賃料債権を譲渡している場合、この処分を破産管財人に主張できます。

この改正は、賃料債権の資産流動化・証券化に対する障害を減少させるためのものです。

3 賃料債務との相殺制限の廃止

「破産債権者カ賃借人ナルトキハ破産宣告ノ時ニ於ケル当期及次期ノ借賃ニ付相殺ヲ為スコトヲ得」と定めた現行破産法第103条が廃止され、賃借人が破産債権を有するときは、賃料債務との相殺が無制限にできることとなりました。例えば、家賃が月額金100万円の建物があって、賃借人が家主に対して金1000万円を貸しつけているときに、家主が破産したとします。賃借人は、家賃の支払時期が来る度に10回にわたり、賃料債務と貸付金とを相殺することができることになりました(新破産法第67条第2項後段)。

4 賃料債務と敷金返還請求権との相殺

家主が破産した場合、賃借人は建物を明け渡さない限り、敷金返還請求権は現実化しませんから、家賃の支払時期が来る度に賃料債務と敷金とを相殺することはできません。ただし、賃借人は敷金額に満つるまで、支払家賃と同額を寄託するよう求めることができます(新破産法第70条)。

そして、破産手続きが終了するまでに建物の明渡を完了すれば、賃借人は、賃料債務と敷金返還請求権を相殺することができ、その結果として、寄託された支払賃料相当額の返還を受けることができます。