第20回   内部告発

弁護士 芝 崎 准 一


■1 
 菓子類の製造日改ざんや消費期限の改ざん、賞味期限切れの材料の使用、ブランド牛や地鶏表示の偽装、耐火性能の偽装…など商品の品質を偽り、消費者を欺く不正表示行為が、毎日のように紙面を賑わせています。
 これらの不正表示が発覚するに至る端緒やその後の経緯は事案により様々ですが、従業員その他の会社構成員からの内部告発を端緒とするものが増加していると言われています。統計上も、先月(平成19年10月)、農林水産省の「食品表示110番」に寄せられた告発情報は、月間ベースで過去最多の697件に達し、年度ベースでも平成19年度は、過去最多であった平成16年度の合計1631件を既に上回ったということです。従前より法令等を遵守しなければいけないというコンプライアンスの意識が浸透してきたことや、有名企業の不正表示が相継いで報道され大きな社会問題となり、告発を行うことに対する社会的意義が広く認識されるとともに、告発を行うに際しての抵抗感が薄らいだことを増加の要因として挙げることができるでしょう。まさに、「後ろめたい行為をしたくない。」「安全・安心を揺るがす事態を放置しておくわけにはいかない。」と考えた人々が勇気をもって告発に踏み切っているものと思われます。

■2 
 ところで、このような告発、特に企業内部の労働者が告発を行ったことにより、所属する企業から、社会的評価を下げたことや社内秩序を乱したことを理由として、解雇や配置転換などの不利益処分を課され、あるいはまた名誉毀損罪などで刑事告訴される場合があり、これまで裁判でもこうした処分等の効力が争われてきました。
 確かに、告発により企業が被る社会的・経済的不利益は大きく、企業の存亡をも左右する危険性があります。そこで、特定の企業の社会的評価を下げることを目的とした告発や相応の根拠に基づかない告発は厳に慎まねばなりません。
 しかし、一方で真に社内秩序の回復を意図し、社会的に意義のある告発を行った者が、告発を行ったことにより不利益を被るのであれば、告発行為が萎縮され、社内秩序も社会秩序も回復されないばかりか、現実に欺かれた市民が不利益を被ることになります。
 そこで、こうした内部告発者の保護を目的として、平成16年6月に「公益通報者保護法」(通称:内部告発者保護法)が制定され、平成18年4月1日から施行されています。同法では、同法に定める「公益通報」を行った労働者に対して行われた解雇は無効であると規定されており(第3条)、また、事業者は、「公益通報」を行った労働者に対して、降格・減給その他不利益な取扱いをしてはならないと規定されています(第5条)。

■3 
 ただ、労働者が同法で保護されるためには、同法の別表に掲げられた法律(約400の法律が掲げられています)に違反する行為について通報するものでなければならず、通報が、@労務提供先やA行政機関(監督官庁)、BA以外の外部機関(マスコミや消費者団体など)のいずれになされるかによって、保護される要件が大きく異なっています(@からBに従って要件が厳しくなります)。例えば、マスコミに通報する場合には、(1)通報の対象となる事実が生じていると信ずるにつき相当の理由が必要であり、加えて(2)労務提供先や監督官庁に通報した場合には解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があることが必要とされています。
 このように、同法の要件は厳しく、また要件を充たすか否かについて一義的に判断できるものではないため、労働者が同法で保護されることを意図して公益通報を行う場合には、事前に弁護士等に相談されることをお勧めします。

■4 
 他方で、事業者側から自主的に従業員等からの不正に関する相談や通報を受け付ける制度(内部通報制度)を設け、内部や弁護士事務所等特定の外部に相談窓口(通報窓口)を設置する企業が増えています。企業が自ら不祥事の情報を収集して事前に問題を解決することができれば、健全な自浄作用により社内秩序を保つことができ、また不祥事による社会的ダメージからも逃れることができるためです。
 貴社が継続的・安定的に発展していく上でこうした内部統制手段の構築は非常に重要となりますので、一度検討されてはいかがでしょうか。
 以上