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第19回 取調べ状況の録画・録音(取調べの可視化)
弁護士 芝 崎 准 一
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今月10日、自白の信用性に関する刑事事件の判決が2件報道されました。
一つは、富山地方裁判所高岡支部で言い渡された再審無罪判決です。大きく報道されましたのでご存じの方も多いと思いますが、約2年間の服役後に真犯人が判明した冤罪事件です。原判決は、被告人とされた男性の「自白」に信用性を認めた上で、有罪であると判断し、懲役3年の実刑判決を言い渡していました。
もう一つは、東京地方裁判所で言い渡された有罪判決です。捜査機関が取調べの状況をDVDで録画しており、こうした取調べ録画が証拠として採用された事件における全国で初めての判決でした。結論としては有罪の判断が下ったわけですが、判決において、裁判所は、被告人が自白するに至った理由や心境を供述する場面が録画されたDVDの証拠としての価値についてはこれを過大視することはできないと断じました。これは、多くの事件において、捜査段階でなされた自白の任意性や信用性が主要かつ解明困難な争点とされる中で、検察官が自白の任意性等を立証するに際し、(自白を行っている)取調べ状況を録画した記録媒体(ビデオテープやDVD等)を立証の切り札にしようと運用を開始してきたにもかかわらず、裁判所がその証拠価値を限定的に捉えたものであり、弁護人側からは評価できる判決内容であるということができます。ただ、本件における特殊事情として、証拠とされたDVDは、被告人が初めて自白を行った日から1か月以上経過した日に録画されたものであり、加えて、約10分間だけ自白するに至った理由や心境を簡潔に述べたものすぎなかったということが挙げられます。
■2
ご存じのとおり、これまでいくつもの冤罪事件が起きています。これらの多くは、捜査段階において、これまで経験したことがないような非日常的な環境に突如として置かれた被疑者が、混乱や絶望、また現在受けている厳しい取調べの状況から取りあえず抜け出たいという安易な心境から捜査機関に対して身に覚えのない自白を行ってしまった(捜査機関から身に覚えのない自白を引き出されてしまった)ことに起因していたということができます。
そこで、これまで弁護士や弁護士会では、検察庁、検察官その他の捜査機関に対して、被疑者の取調べに際してはその「全過程」を録画ないし録音するよう要求してきました(取調べの可視化といわれる問題です)。前述のとおり、検察庁においても取調べ状況を録画ないし録音する運用が開始されていますが、これは自白している場面のみ又は否認から自白に転じた後の取調べ状況のみを録画ないし録音するものにすぎず、弁護士が要求している「全過程」の録画等とは異なるものです。「全過程」の録画等でなければ、自白に至る経緯に自白の強要や利益誘導がなかったのか、捜査機関に迎合しているだけではないかなど、被疑者が自白を行っている際の心理状態を正確に把握することができず、公正かつ信用性が担保された証拠ということはできないからです。例えば、否認から自白に転じた後の一部の取調べ状況の録画等だけでは、自白に転じた理由や経緯が不明なままであり、かえって検察官の有罪立証のみに資する偏った証拠であるということができます。このような意味で、前述のとおり、被告人が初めての自白を行った1か月以上後に録画されたDVDの証拠価値を限定的に捉えた東京地方裁判所の判断は正当なものとして評価することができるでしょう。
■3
今後、取調べの可視化が徹底されれば、自白の任意性という刑事裁判が長期化する一つの要因となってきた困難な問題(争点)が解決され、裁判の迅速化や冤罪の減少という大きな成果が得られることでしょう。冒頭で紹介した富山事件では、裁判官が被告人とされた男性に対し、「これからの人生が充実したものになるよう心から願っていますと。」と声をかけたと報道されていますが、男性が逮捕から5年半という時間の中で失ったもの、味わった苦痛は想像するに余りあります。このような悲劇が二度と繰り返されないように、捜査機関に対する取調べ「全過程」の可視化の要求は、単に弁護人となる弁護士だけではなく、いつ身に覚えのない容疑がかけられるとも限らない市民総意の要求として世論を形成し、捜査機関を動かす必要があるのではないでしょうか。
以上
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