第18回   経歴詐称

弁護士 松 谷 卓 也


■1 逆学歴詐称問題
 神戸市や尼崎市において、本当は大学や短大を卒業しているにもかかわらず、自分の学歴を高卒と低く申告し「中卒又は高卒限定」の採用枠で採用されていた職員が多数いることが発覚し、同市はこれらの職員を諭旨免職にしました。
 一方、大阪市では、400人以上の職員が同様に逆学歴詐称をしていたにもかかわらず、学歴詐称が自主申告によって発覚した場合には停職1ヶ月の処分にとどめると公表しており、市民から処分が甘いのではないかという声も聞こえてきています。  

■2 経歴詐称と懲戒解雇
 それでは、神戸市、尼崎市と大阪市のような取り扱いの差異は何故生じてくるのでしょうか。まず、民間の企業の場合はどうなるのか考えてみます。
 企業の場合、経歴詐称が懲戒事由となる根拠として、企業は応募者の学歴や職歴等を参考にして採否を決めるわけですが、これに基づいて配置や処遇、育成方針も立てるのであり、判断の前提となっている経歴に偽りがあれば、採否も、その後の人事管理も偽られた基礎の上に立ち上がるということになってしまうため、重要事項についての経歴詐称は許されないという点にあります。
 また、企業は、社内の職務毎の学歴バランスなどを考慮して、採用とその後の人事管理を行っているため、学歴は高く偽った場合のみならず低く偽った場合も問題のある経歴詐称に該当します。
 大部分の就業規則は重要な経歴の詐称を懲戒事由としており、裁判例もこれが懲戒事由となることを肯定しています。
 そして、重要な経歴にあたるとされる主なものは最終学歴、職歴や犯罪歴ですが、裁判例上も、当該労働者の職種などに即し、企業が労働者の真実の経歴を知っていたのであれば、当該労働者と雇用契約を締結しなかったであろうと考えられ、客観的にもそのことに合理的な理由があるかといった具体的な事情に応じて重要な経歴詐称にあたるかどうかが判断されています。
もっとも、上記のような重要な経歴の詐称があったとしても、入社後の勤続年数、勤務成績等を斟酌し、懲戒解雇は酷に失するとして、懲戒解雇を否定している裁判例もあります。このような裁判例に照らしてみると、一概に、民間の場合に比べて大阪市の処分が甘いとは断言できません。

■3 画一的処理の合理性
 経歴詐称者が職員の中に400人以上もいることが発覚した異常な事態に迅速に対応するためには、画一的な処理もやむを得ない面があるかもしれませんが、詐称の内容や勤続年数などの個別具体的な事情を考慮せず、一律に自主申告であれば停職1ヶ月にとどまるとした処理に市民としては疑問が残るのかもしれません。
 いずれにしろ、民間だから、公務員だからというだけで割り切ることはできない問題です。ただ、公務員の場合、公的な立場として、一般市民の納得が得られるように、説明義務を尽くすということが大事なのではないでしょうか。