第10回  ハインリッヒの法則

弁護士 田 中 朋 子


■ 1
 前回、不二家のペコちゃんが立体商標登録されていることに触れましたが、新年早々、そのペコちゃんが騒動に巻き込まれてしまいました。
 1月12日、ペコちゃんで知られる老舗菓子メーカーの不二家で、消費・賞味期限切れの材料を使用した製品が製造されていたことが発覚しました。さらに、他の工場への出荷の際、消費期限を表示していなかったこと、消費期限を社内基準より延長して表示していたこと等次々とずさんな工場管理の事実が明らかになりました。
 この結果、営業・生産の停止、社長の退任を招き、果ては経営再建まで検討されるようになっています。

■ 2
 また、オハヨー乳業は、1月26日、味覚異常のため、プリン等4種約31万個を自主回収しました。これは、低温細菌が商品に混入した可能性が高いためだとされています。

■ 3
 業界は異なりますが、1月20日には、関西テレビの「発掘!あるある大辞典2」が放送した「納豆ダイエット」がねつ造であることが発覚しました。番組の影響力は、放送直後には、スーパー等で納豆の姿が消えてしまうほどで、納豆の増注に応じるために、製造業者は、急遽納豆を増産することになりました。しかし、ねつ造が発覚するや一転、消費は元に戻ってしまい、業者はその対応に頭を悩ませています。

■ 4
 このように、新年から、企業の驚くべき不祥事が相次いだわけですが、これらの不祥事は氷山の一角であるとも考えられます。このことを示唆するものとして、ハインリッヒの法則と呼ばれる法則があります。ハインリッヒの法則は、別名1:29:300の法則とも呼ばれる法則で、米国のハインリッヒ氏が、1930年代に、労働災害の発生確率を分析した結果確立したものです。この法則の考え方は、現在は、保険会社の経営をはじめとする産業界だけでなく、広く行政、医療の分野に取り入れられています。この法則によれば、1件の重大災害の下には、29件の中災害があり、さらにその下には、300件もの「ヒヤリ」「ハッと」した体験があるとされます。「ヒヤリ」「ハッと」は、通常顕在化しないため、大事件が起きるまでは見過ごされがちです。しかし、30件もの大・中災害が顕在化するような場合には、意識をすればそれ以前に数多くの小さな兆候を読み取ることができるはずだというのです。

■ 5
 ハインリッヒの法則に則れば、今回の騒動の場合も、発覚していない相当数の不祥事が潜んでいることになります。実際に、上記の例でも、最初の不祥事が発覚した後、連鎖的に別の不祥事が浮かび上がるという様相を見せています。
 そして、このような不祥事発覚後は、トップである社長が退任することがもっぱらです。上記の例でも、不二家では既に社長が退任しており、関西テレビでも、調査委員会の調査結果いかんでは社長の退任の可能性があると報じられています。確かに、新社長が誕生すれば、多少のマイナスイメージの払拭ははかれるかも知れません。しかし、問題の徹底的解明が中途半端のままで、抜本的解決なくして退任するだけでは、不祥事の根を絶つことはできません。
 新たな不祥事の発生を防止するためには、明るみに出た重大災害や中災害の原因解明・事後対策では不十分であり、潜在的部分の徹底的な見直しが必要と言えましょう。もっと言えば、重大災害等が発生しなくとも、予防的に、「ヒヤリ」「ハッと」を検証していくことが、重要です。
 「ヒヤリ」「ハッと」が大事につながるという意識が大切であることを、ハインリッヒの法則は教えてくれています。