第9回 立体商標制度 弁護士 田 中 朋 子 ■ 1 先日、お土産に頂いた和菓子を食べようとしたところ、ふと手が止まりました。これは、つい最近話題になった「名菓ひよ子」ではないかと。思わず、包装紙をよく見てみるに、モチーフとされているのは、ひよこではない別種の鳥でした。 「このような類似品を売っていて問題はなかったのだろうか」と思い、「ひよ子」騒動について考察してみました。 ■ 2 平成18年11月29日、知財高裁は、製菓会社「ひよ子」(福岡市)の鳥形の菓子、「ひよ子」の立体商標(平成15年8月29日登録)を有効と判断した、平成17年7月28日の特許庁の審決を取消しました。この裁判は、同じく鳥形の菓子を製造している「二鶴堂」(福岡市)が、上記審決の取消を求めて提起したものです。 判決において、裁判所は、「鳥の形の菓子は全国に多数あり、和菓子としてありふれたもの」であり、「ひよ子」について、「(広告で使われている)文字商標はともかく、立体商標は全国的な知名度を得ていない」と述べ、「二鶴堂」の請求を認めました。 特許庁が、「ひよ子は大正期以来の長年の歴史があり、小さなくちばしと目の形など他と違う特徴がある」として、立体商標を認めたのとは対照的な判断となったわけです。 ■ 3 そもそも、立体商標制度とは、3次元の立体的な形状からなる商標について、商標登録を認めるもので、平成8年の商標法改正により認められるようになった比較的新しい制度です。最初に立体登録されたのは、不二家のペコちゃん、ポコちゃん、早稲田大学の大隈重信の銅像、ケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダースの人形などでした。その他、有名なものとして、キューピーのキューピー人形があります。 しかし、商品自体の形状や商品の包装の形状に関する立体商標が認められた事例は極めて少なく、「ひよ子」は、商品の形状そのものに立体商標が認められた稀なケースだったのです。 確かに、上記の立体登録商標は、いずれも形状を見るだけで、名称も誰の商品であるかも明確に浮かぶものといえます。しかし、「ひよ子」については、そこまで絶対的ではなく、目にした人の出身地、居住地などのバックグラウンドによって異なるようにも思われます。例えば、九州地方出身の方であれば、「ひよ子」を見て、「『ひよ子(会社)』の『ひよ子(商品)』だ!」と思われると思いますが、中部地方出身の私にとっては、全く別の会社の商品名が浮かぶわけです。 いずれにせよ、今回の判決は、「ひよ子」についての判断だけでなく、特許庁と裁判所の判断の違い等を示すものであり、立体商標制度自体にとっても重要なものであると考えられます。 ■ 4 製菓会社「ひよ子」は、平成16年、「二鶴堂」を相手に、「ひよ子」の商標権に基づき類似の形状の菓子の侵害訴訟を提起しましたが、今回の判決結果によれば、その前提を欠くことにもなります。 判決は、「ひよ子」以外にも「全国で23業者が鳥の形状の菓子を製造販売し、いずれも遠目には見分けが付きにくいほど似ている」と指摘していましたが、私がお土産に頂いたお菓子は、判決が掲げていた商品には含まれていませんでした。全国にはより多くの、隠れ「類似ひよ子」が存在する可能性が高いのではないでしょうか。 となると、「ひよ子」騒動がこれで解決するのか、「ひよ子」の命運については、まだ今後を見守る必要がありそうです。 以上