第5回   ジダンの頭突きはどんな問題?

弁護士 松 谷 卓 也


■1 ワールドカップ
 4年に一度の祭典であるワールドカップが幕を閉じまし た。私は、ブラジルが優勝するものと予想していましたが、 結果は、低迷していたフランスがブラジルを破り、決勝戦 は、イタリア対フランスという組み合わせとなりました。
 既に引退を表明していたジダンにとっては、まさに有終 の美を飾る場として、最高の舞台であったと思います。
 しかし、その最高の舞台で、ジダンはマテラッツィに、 頭突きをするという前代未聞の行為を犯し、退場となりま した。

■2 スポーツ時の侮辱と損害賠償責任
 ジダンは、マテラッツィが、ジダンの母と姉を侮辱する 発言を行ったことによって、自らの有終の美を飾る場を台 無しにしても構わないと思うほど強く怒りを感じたので しょう。スポーツにおいて野次や侮辱発言が乱闘に発展す るケースがありますが、このような侮辱発言は、損害賠償 請求の根拠とならないのでしょうか。
 一般にスポーツのルールにおいては、身体的な行為につ いての罰則はたくさん定められていますが、このような侮 辱発言についてはあまり明確には定められていません。た だ、FIFA 公式ルールでは、攻撃的な、侮蔑的な、あるい は口汚い発言をする場合は、レッドカードとすることが定 められているようです。
 損害賠償論として考えると、身体的なダメージにおいて は、スポーツやゲームに参加する者は、加害者の行為がそ のスポーツやゲームのルールないしは作法に照らし、社会 的に許容される範囲の行動である限り、そのスポーツや ゲーム中に生ずる通常予測しうるような危険を受忍するこ とに同意していると考えられていますが(推定的同意)、 侮辱発言についてはスポーツ時の「推定的同意」があると は思えません。
 したがって、マテラッツィの侮辱発言の内容によっては、 ジダンからの損害賠償請求が認められる可能性は十分ある と考えます。

■3 スポーツ時の暴行と損害賠償責任
 これに対して、ジダンの暴行については、さきほどの推 定的同意の範囲内かどうかが違法性の存否を分けることに なるわけですが、あの頭突きは明らかにサッカーの攻撃や 守備とは無関係な行為であり、マテラッツィが同意をして いたと推定することには無理があります。したがって、ジ ダンの行為は、明らかに損害賠償請求の根拠となってしま います。

■4 FIFA の処分
 ところで、ジダンは、頭突きをした結果、FIFA から約 70万円の罰金と3日間の社会奉仕活動(3試合出場停止の 代替)という処分を受け、他方、マテラッツィは、侮辱行 為をした結果、約47万円の罰金と、2試合の出場停止とい う処分を受けました。
 ジダンは、暴力行為自体は、許されるべきものではない と言いながらも、マテラッツィの暴言も許されるべきもの ではなく、自らの行為に後悔はしていないと発言していま す。他方、マテラッツィ側も、手を出したのはジダンであ り、不公平であるという見解を持っている人もいるようで す。
 では、両選手からFIFA を相手に、何らかの不服申立を 行うことはできないのでしょうか。FIFA 内部の手続は別 として、今回の問題が日本で起こった場合に、裁判所にど のような請求ができるかということとして話をすすめさせ ていただきます。
 裁判所に対しては、かかる処分が違法なものであるとし て、処分取消しの無効確認判決を求めることが考えられま す。
 しかし、日本の裁判例上「部分社会の法理」というもの があり、例えば、大学における単位授与認定行為は、大学 という部分社会の裁量を尊重すべきであり、一般社会法秩 序と直接の関係を有することを肯認するに足りる特段の事 情がない限り、司法審査の対象とならないとされています。
 したがって、FIFA の処分が「一般市民法秩序と直接の 関係を有すること」、すなわち、ジダンとマテラッツィの スポーツを行う権利に重大な利害関係を及ぼすものであり、 その処分によってスポーツをする権利の本質が侵害されれ ば、処分の当不当に関して裁判所による審査を行うことが できますが、罰金処分だけでは、スポーツをすること自体 を禁止するものではなく、額も相当程度のものといえます し、マテラッツィの出場停止処分についても2試合の出場 停止という比較的短期の出場停止処分にあたりますので、 裁判所において司法審査を求めることは困難と思われます。

■5 まとめ
 近所で遊んでいる子どもが、ジダンの頭突きを真似して いるのを見かけました。プロ野球にしても、サッカーにし ても、子どもたちはフィールドで行われているプレーすべ ての真似をしてしまいます。大事なことは、それぞれが有 名スポーツ選手として、社会に与える影響(社会的責任) を考えて行動してほしかったということです。そして、 フィールド外では、上記の法律問題を踏まえてきちんとジ ダンすべきですね(笑)。