第4回   TOB(株式公開買付け)は成功するでしょうか。

弁護士 井 口 寛 司

■1 村上ファンドに対する公開買付け
 いわゆる村上ファンドによる阪神電鉄株式の大量取得に対して、阪急ホールディングス株式会社が、阪神電鉄株のTOB(公開買付け)を行うことを表明しました。正確には、阪急ホールディングスが、阪神電鉄株について株式公開買付けを実施し、「特定の大株主」であるいわゆる村上ファンドがこれに申込みをしてきた場合にこの公開買付けが成立し、その場合、阪神電鉄株の株式が阪急ホールディングスの株式と交換され、最終的に阪急ホールディングスが完全親会社、阪神電鉄が完全子会社となるという経営統合スキームです。

■2 TOB(株式公開買付け)とは
  株式公開買付けは、TOB(Take Over Bid)と呼ばれますが、特定の会社の株式(阪神電鉄株)について不特定多数の株主に対して、特定の価格(今回は1株について930円)で買い付ける旨を公告して売主を募集し、有価証券市場の「外」で株券などを買い付ける制度です。証券取引法は、原則として、@その株券、新株予約権付社債券その他の有価証券などについて、A有価証券報告書を提出会社の株券等を、B証券取引所市場の外で、B買い付けなどの有償譲受けを行う場合は、公開買付けの手続によらなければならないと定め、投資者保護のための情報開示と応募株主を平等に扱うための規制がなされています。

■3 「特定の大株主」
  本来、公開買付けは、会社の経営権の取得などを目的として、不特定多数の株主に対して買い付けの募集を行うものですが、阪神電鉄のケース(以下「今回のケース」といいます。)では、不特定多数としながらも、「特定の大株主」である村上ファンドに対して株式の譲渡についての賛同を求めることを主目的としているわけです。マスコミは、連日930円と阪神電鉄株の株価の推移を報道し、村上ファンドがこれに応じて申込みをするのかどうかを注目しています。期間は5月30日から6月19日まで。果たして、このTOBは成功するのでしょうか。もし、今回のケースで、村上ファンドの株式を含めて買付け予定株式数である189,743,590株に達しなければ、阪急ホールディングスは全部の買付けをしないと表明しておりますので、買付けは行われません。

■4 買付条件の変更
  新聞では、村上ファンド側が阪急ホールディングスに対して、買い付け価格の引き上げを要求しているのでは? と報道されています。買付価格の引き下げ、買付予定株数の減少、買付期間の短縮など応募株主に不利となる条件変更はできないとされていますが(同法27条の6)、買付価格の引き上げは認められているので、交渉の範囲内となるわけです。また、買付者である阪急ホールディングスは、公開買付けをしている以上、その手続によらないで買い付けることは禁止されています(同法27条の5)。両者の間では、このような条件下で攻防が続いているのだろうと思います。

■5 決済
  公開買付けで、買付予定株式数の応募がありますと、その全部について株券の受け渡しと代金決済を行わなければなりません。今回の場合は、買付け予定株式数を超えてもすべて買付けを行うと表明しておりますので、すべての株式について決済が必要となります。買付予定株式数ちょうどの応募があった場合、その資金は1764億6100万円となります。

■6 敵対的TOB
敵対的TOBとは、発行者の同意を得ないTOBですが、今回の場合は、阪神電鉄の「取締役会は賛同の意を表明しています。」として、同社の同意を得た上でのTOBであることが明確となっており、いわゆる友好的TOBといわれます。
  これらを参考にして報道に接していただくと、もっと興味がわくのではないでしょうか。